大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和63年(ネ)507号 判決

控訴人 亡高野篤子相続財産

被控訴人 大塚正子 外3名

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人らは「本件控訴をいずれも棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び立証は、証拠に関して当審記録中の証拠目録記載のとおりである旨の付加をするほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

一  成立に争いのない甲第1ないし第3号証によれば、亡高野篤子は、昭和61年2月21日公正証書遺言によつて、被控訴人ら4名に対し、自己所有にかかる原判決添付物件目録(編略)記載の不動産につき各12分の1宛の持分(合計3分の1)を遺贈し、同年3月9日死亡したこと並びに被控訴人らは右遺贈を原因として右不動産につき各所有権一部移転登記をしたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

二  民法255条の解釈に関しては、持分権は制限された所有権であるから、いわゆる弾力性があり、共有者の1人が、その持分権を放棄すれば、右持分権は他の共有者の持分の割合に応じて同共有者に帰属し、また共有者の1人が相続人なくして死亡した場合も同様にして、その持分権は他の共有者に帰属すると解するのが同条の文理にも適い、また立法の経過にも合するものというべきである。即ち、同条後段の立法の沿革をたどると、不動産について、共有者の1人が相続人なくして死亡した場合、これが国庫に帰属し、国と私人との共有関係が生ずることの煩さを避ける目的と元々管理、使用していた他の共有者に帰属させるのが最も社会通念に合しているとの政策的配慮から制定されたものと解される。

右のとおり同条は、元々共有関係にあつた者が持分権を放棄ないし相続人なくして死亡した場合が前提になつていると解すべきである。

しかるところ本件では、昭和61年2月21日に公正証書遺言によつてなされた遺贈は、同年3月9日の篤子の死によつて効果を生じ、同女の死を契機にして初めて、控訴人と被控訴人らは共有関係に立つに至つたもので、直ちに民法255条後段にあたる場合ではないと解される。

尤も死後共有関係に立つ点では、生前から共有である場合も遺贈によつて共有になつた場合も同様であり、遺言者に相続人がない場合は国庫に帰属することによる煩さはいずれの場合も同様に生ずる虞れはある。しかしながら、遺贈によつて共有になつた場合にも民法255条後段が適用されると解することは、持分を限つて遺贈した遺言者の意図を踏みにじる結果を引き起こしかねない点を考慮すると、この場合は民法958条の3によつて特別縁故者としての分与を求めるは格別、民法255条後段が適用ないしは類推適用される場合にはあたらないと解するのが同条の文理にも適い相当である。

三  以上の通りであるから被控訴人らの本訴請求は民法255条の解釈を誤つてなした請求というほかはなく、じ余の点の判断をするまでもなく失当であるから棄却を免れない。

よつて右と結論を異にする原判決を取り消し、被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法96条、89条、93条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀧田薫 裁判官 豊永多門 笹本淳子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例